丸サ進行とJust The Two of Us進行の違いは?歴史と類似曲の真相を徹底比較
椎名林檎が1999年2月24日にリリースしたファーストアルバム『無罪モラトリアム』。その収録曲でありながら、シングル曲以上の圧倒的な知名度と影響力を誇るのが『丸の内サディスティック』です。2026年現在に至っても、YOASOBIの『夜に駆ける』や藤井風の楽曲、さらにはボカロPたちの最新ヒットチャートに至るまで、この曲が持つ都会的で切ない響きは日本の音楽シーンのど真ん中に君臨し続けています。
音楽ファンやプレイヤーの間で「丸サ進行」の愛称で親しまれているこのコード進行ですが、世界的には1981年の名曲にちなんで「Just The Two of Us進行」とも呼ばれています。[nippon.comの音楽コラム]や、BS12の音楽教養番組『ザ・カセットテープ・ミュージック』(2019年10月6日放送「第49回 コード進行まとめました特集」)でも深く掘り下げられたように、両者はイコールで結ばれることが多い一方で、実はJ-POP独自の進化を遂げた「決定的な違い」が存在します。音楽理論の構造と歴史的背景から、その真相を詳しく紐解いていきます。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:『丸の内サディスティック』のコード進行は、度数表記で「IVM7, III7, VIm7, I7」を基本とする循環コードである。
- 要点2:原典の「Just The Two of Us進行」と「丸サ進行」は骨格こそ同じだが、4小節目のアプローチとリズムの跳ね方にJ-POP独自の解釈がある。
- 要点3:セカンダリードミナントとツーファイブを巧みに組み込んだ構造が、日本人の琴線に触れる「都会的な哀愁」を生み出している。
【構造解析】丸の内サディスティックのコード進行と音楽理論の秘密
まずは『丸の内サディスティック』の核となるコード進行を、実際の演奏データと音楽理論の双方から確認してみましょう。原曲のキーはE♭メジャー(変ホ長調)ですが、ギターやピアノアレンジで構造を理解しやすいように、まずはハ長調(Cメジャー/Aマイナー)に移調したディグリーネーム(度数)と照らし合わせて整理します。
| 進行の要素・キー | 1小節目(サブドミナント) | 2小節目(セカンダリードミナント) | 3小節目(トニックマイナー) | 4小節目(次のIVへの推進力) |
|---|---|---|---|---|
| 度数表記(ディグリー) | IVM7 | III7 | VIm7 | I7(または ♭IIIm7-♭VI7) |
| 原曲キー(E♭メジャー) | A♭M7 | G7 | Cm7 | E♭7 |
| Cメジャー換算(ピアノ・ギター用) | FM7 | E7 | Am7 | C7(または Gm7 - C7) |
なぜこのわずか4つのコードの繰り返しが、これほどまでに聴き手の心を掴んで離さないのでしょうか。その理由は、作曲技法における「セカンダリードミナント」と「ツーファイブ(II-V)」の絶妙な配置にあります。
まず1小節目の「FM7(IVM7)」というサブドミナントから始まることで、調性の主役であるトニック(CやAm)を直接鳴らさず、どこか宙に浮いたような浮遊感とアンニュイな空気を作り出します。続く2小節目では、本来ダイアトニックコードであればマイナーになるはずの「Em7(IIIm7)」を、あえてメジャーのドミナントセブンスである「E7(III7)」に変化させています。これが3小節目の「Am7(VIm7)」へ強く解決しようとする「セカンダリードミナント」の働きを持ち、胸を締め付けるような強い哀愁を生むのです。
さらに4小節目の「C7(I7)」がポイントです。本来のトニックである「CM7」ではなく、あえて短7度(B♭の音)を含む「C7」を鳴らすことで、今度は1小節目の「FM7」へ向かうセカンダリードミナントとして機能します。ここでジャズやR&Bの定番技法である「Gm7, C7(VIm7から見た時のIIm7, V7=ツーファイブ)」を挟み込むアレンジも頻繁に使われ、終わりのない滑らかなループ(循環コード)が完成します。

「丸サ進行」と「Just The Two of Us進行」は全く同じなのか?歴史と違いを徹底比較
音楽解説の場では「丸サ進行=Just The Two of Us進行」と一括りに語られることが少なくありません。しかし、1981年にリリースされたグローヴァー・ワシントン・ジュニア(Grover Washington, Jr.)とビル・ウィザースによる歴史的名曲『Just The Two of Us』と、椎名林檎の『丸の内サディスティック』を詳細に聴き比べると、そこには音楽史の変遷とJ-POPならではのローカライズが見えてきます。
| 比較項目 | Just The Two of Us進行(原典) | 丸サ進行(J-POP進化形) |
|---|---|---|
| 代表的な起源・発表年 | グローヴァー・ワシントン・Jr.(1981年) | 椎名林檎『丸の内サディスティック』(1999年) |
| Cキー換算の基本コード | FM7, E7, Am7, Gm7, C7(または G#m7, C#7 的な半音進行) | FM7, E7, Am7, C7(サビでは Am7, D7 等の変化も) |
| リズムとグルーヴの質感 | メロウでレイドバックした16ビート・R&Bグルーヴ | シャッフル(跳ねたビート)とロック・歌謡曲的なドライブ感 |
| メロディの乗せ方 | ペンタトニックを基調としたソウルフルな歌唱 | 言葉数を詰め込んだ日本語の譜割りとキャッチーな跳躍 |
原典である『Just The Two of Us』(原曲キーはD♭メジャー/B♭マイナー)では、3小節目のトニックマイナー(B♭m7)から1小節目のサブドミナント(G♭M7)へ戻る際、「A♭m7, D♭7」というツーファイブに加えて、時に半音上から滑り込むようなクロマチック(半音階)のアプローチが強く意識されています。全体として、フェンダー・ローズ(エレクトリック・ピアノ)の柔らかい音色を活かした、夜のラウンジに似合うアダルトなR&B(ブラック・コンテンポラリー)の文脈で作られています。
対して、椎名林檎が構築した「丸サ進行」は、編曲を手掛けた亀田誠治のうねるようなベースラインと、河村“カースケ”智康の跳ねたドラムビートによって、より攻撃的でロックな推進力を持っています。コード面でも4小節目をシンプルに「E♭7(I7)」で押し切ったり、サビの後半では「Cm7, F7(VIm7, II7)」という別のセカンダリードミナントを投入して展開に山場を作ったりと、日本の歌謡曲らしいドラマチックな起承転結が組み込まれているのが大きな特徴です。
なぜJ-POPを席巻したのか?「4536進行」との融合とヒット曲の系譜
2010年代後半から2020年代にかけて、このコード進行は空前のブームを巻き起こしました。その背景には、90年代からJ-POPの王道として愛されてきた「4536進行(IV, V, IIIm, VIm)」との親和性があります。
どちらも「IV(サブドミナント)」から始まり、「III」を経由して「VIm(マイナー)」に着地するという大枠のルート(根音)の動きが極めて似ています。「4536進行」の2小節目にある「V」を抜いて、代わりに「III」をメジャーセブンス化(III7)して前倒しするだけで、一気にジャジーで都会的な「丸サ進行」へと変貌するのです。
『丸の内サディスティック』以降、この進行を取り入れて大ヒットした代表的なJ-POP楽曲を挙げると、その影響力の凄まじさが分かります。
- 平井堅『瞳をとじて』(2004年):サビの頭でJust The Two of Us型の進行を採用し、王道バラードの泣きメロとして昇華。
- 日向坂46『アザトカワイイ』(2020年):アイドルポップスのキラキラしたアレンジの中に丸サ進行を組み込み、音楽ファンの間で話題に。
- YOASOBI『夜に駆ける』(2019年):イントロやサビでピアノアレンジと共に高速の丸サ進行(派生形)を駆け抜け、ボカロ文化とJ-POPの融合を決定づけた。
- Awesome City Club『勿忘』(2021年):原典のソウル・R&B的な質感とJ-POPのメロディセンスを現代的に再構築。

【実態検証】プレイヤーの生の声と現場目線で見えたリアル
実際にこのコード進行を演奏するギタリストやピアニスト、そしてDTMクリエイターたちは、『丸の内サディスティック』のコードをどう捉えているのでしょうか。SNSや楽器コミュニティ、セッション現場のリアルな声を検証すると、独特の現象が浮かび上がってきます。
まず、ジャズバーや大学の軽音楽部で行われるジャムセッションにおいて、「丸サ進行」は最強の共通言語として機能しています。本来、初心者がジャズのスタンダード曲(『枯葉』や『Fly Me To The Moon』など)でアドリブセッションを行うには高いハードルがありますが、『丸の内サディスティック』のコード進行であれば、マイナーペンタトニックスケール一発でもそれらしくカッコいいソロが弾けてしまいます。
一方で、アコースティックギターで弾き語りを挑戦するプレイヤーからは、「コードネーム通りにローコードでF、E7、Am、C7とジャカジャカ弾いても、原曲のようなオシャレな雰囲気が出ない」という悩みも頻繁に聞かれます。当時のバンドスコアや本人によるピアノ弾き語りアレンジを観察すると、実は「代理コード」や「テンションノート(9thや13th)」、そしてベース音が滑らかに繋がる「分数コード(オンコード)」が巧みに使われていることが分かります。
一般に知られていない盲点とネットの誤解|オシャレに響かせる代理コード術
ネット上の簡易コード譜サイトを見ると、『丸の内サディスティック』のコードは単純な4つの基本コードだけで表記されているケースが多々あります。しかし、「ただコードを並べるだけで誰でも椎名林檎になれる」というのは大きな誤解です。
原曲の持つ退廃的で艶やかな響きを再現するための最大の盲点は、「裏コード(トライトーン・サブスティテューション)」と「ディミニッシュ(dim7)」の経過音にあります。例えば、Cメジャー換算の「FM7, E7, Am7, Gm7, C7」をピアノやギターでアレンジする際、以下のような工夫を加えることで、一気にプロ仕様のサウンドに化けます。
- E7に「♭9th」や「#9th」を足す:ただのE7ではなく「E7(♭9)」や「E7(#9)」を押さえることで、椎名林檎特有のヒリヒリとした毒気とジャジーな緊張感が生まれます。
- 経過音として「G#dim7」を挟む:E7からAm7へ移行する直前に、代理コードとして機能する「G#dim7」を半拍〜1拍挟むことで、ベースラインが「F → E → G# → A」とドラマチックにうねります。
- C7の裏コード「F#7(G♭7)」を使う:4小節目のGm7, C7を「Gm7, F#7(9)」に置き換えると、次の1小節目「FM7」に向かって半音上から滑り落ちる極上のネオソウル風アレンジが完成します。
また、歌詞に登場する「リッケン620」「ベンジー(浅井健一)」「ラット(RAT=ディストーションペダル)」「マーシャル」といったギタリスト垂涎のロック機材ワードと、洗練されたジャズ・R&Bコード進行とのギャップ(対比構造)こそが、単なるオシャレ音楽に留まらない『丸の内サディスティック』の本質なのです。
【プロの結論】作曲・アレンジで丸サ進行を使うべき人・慎重になるべき人の判断基準
音楽制作やカバー演奏において、この「丸サ進行(Just The Two of Us進行)」は非常に強力な武器になりますが、万能薬ではありません。音楽理論と現代のリスナー心理の観点から、使用すべきケースと避けるべきケースを整理します。
【積極的に使うべき人・向いているケース】
・都会の夜、少し背伸びした恋愛、アンニュイな日常など、「陰影のある世界観」を表現したいクリエイター。
・ヒップホップのトラックメイク(Lo-Fi Hip Hopなど)や、ボカロ・歌い手界隈のアップテンポなピアノロックを作りたい人。
・楽器初心者で、まずは4つのコードの繰り返しから「アドリブ演奏」や「作曲の楽しさ」を体感したいプレイヤー。
【慎重になるべき人・避けるべきケース】
・「丸サ進行の呪縛(手癖化)」に陥っている人。あまりにも完成度が高く気持ち良い進行であるため、意識しないと作る曲がすべて『丸の内サディスティック』の二番煎じに聴こえてしまうリスクがあります。
・突き抜けるように明るい応援ソングや、ストレートなパンクロックを作りたい場合。III7の持つセカンダリードミナントの哀愁が強すぎるため、ポジティブなメッセージを乗せるとちぐはぐな印象を与えやすくなります。
【丸の内サディスティックのコード】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:『丸の内サディスティック』の原曲キーは何ですか?ギターで簡単に弾く方法はありますか?
A1:原曲のキーはE♭メジャー(平行調のCマイナー)です。ピアノでは黒鍵が多く、ギターでもバレーコード(A♭M7やCm7など)が頻出するため初心者には難易度が高めです。アコースティックギターで弾く場合は、カポタストを3フレットに装着し、「FM7, E7, Am7, C7」のフォームで弾くと、原曲と同じキーで簡単に演奏できます。
Q2:「丸サ進行」を使った曲をそのまま発表すると著作権侵害(パクリ)になりますか?
A2:結論から言うと、著作権侵害にはなりません。音楽の著作権は主に「メロディ(旋律)」と「歌詞」を保護するものであり、コード進行そのものには原則として著作権が発生しないためです。だからこそ、洋楽の『Just The Two of Us』から『丸の内サディスティック』、そして現代の数多くのJ-POPへと合法的に受け継がれ、多様な名曲が生まれ続けています。
Q3:椎名林檎本人は、どのようにしてこの曲を作ったのですか?
A3:過去のインタビューや公式資料によると、この楽曲は椎名林檎がデビュー前、イギリスに滞在していた10代の頃にピアノの即興演奏(ジャムセッション的なアプローチ)から原型を作ったと語られています。当初は英語詞(デタラメ英語)で歌われていた仮歌の響きを活かしつつ、「東京のOLの生活をモチーフにする」というコンセプトで後から日本語の歌詞が当てはめられました。あの独特な譜割りは、英語のグルーヴ感をそのまま日本語に移植したことで生まれたものです。
まとめ:今後の動向と色褪せない名コード進行の楽しみ方
1981年のグローヴァー・ワシントン・ジュニアによる『Just The Two of Us』から約20年を経て、1999年に椎名林檎が日本のロックと歌謡曲の文脈へと鮮やかに接続した『丸の内サディスティック』。そしてリリースから四半世紀以上が経過した2026年現在、その遺伝子はボカロPや新世代のシンガーソングライターたちの手によって、さらに高速化・複雑化しながら進化を続けています。
単なる「IVM7, III7, VIm7, I7」という記号の羅列として暗記するのではなく、そこに込められたセカンダリードミナントの切なさや、ツーファイブが織りなすグルーヴの妙味を理解することで、普段聴いているJ-POPの景色は劇的に変わります。ぜひご自身の楽器やDAWソフトで、テンションコードや裏コードを交えながら、この不朽のコード進行が持つ奥深い響きを体感してみてください。